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日本のサグラダファミリア「蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)」


この聖坂の先に蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)が鎮座しています。
東京・三田にある蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)。東京、それも都心の一角に、自力でビルを建てている建築家が居る……。
これはかなり気になる!ということで、ご本人著書の本を買い、この目でそのビルを拝見すべく、札幌から東京までひとっ飛びして参りました。
蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)とは


正面から見た蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)





自力建設中のビルに付けられた蟻鱒鳶ル(あり ます とんビ ル)という名前の由来は、陸海空を生きる動物「蟻」「鱒」「鳶」に、この建物を手掛ける岡啓輔さんが尊敬する、あの建築家ル・コルビュジェの「ル」をくっ付けたもの。
蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)を建てたのは建築家・岡啓輔さん


蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)の入り口
蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)をセルフビルドしているのは、建築家・岡啓輔(おか けいすけ)さんという方。
岡さんは1965年・九州生まれ。
有明高専建築学科を卒業されたあと、住宅メーカーを経て、土木・鳶・鉄筋屋・型枠大工などの現場経験を積まれ、2005年に蟻鱒鳶ルを着工しました。
この説明だけでは、どこにでも居そうな建築家に終わりそうですが……岡さんは少し違います。
スケッチブック片手に自転車で日本国内を武者修行したり(これは建築を学ぶため)、岡画廊というギャラリーを主催していたこともあれば、舞踏をはじめたり……。
ね? 建築家によくあるイメージとは真逆と言いますか、そういうところが岡さんの面白いところであり魅力だと思います。
建築に関係あることもないとこも、最終的にはその全てが岡さんの仕事、つまり蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)に表現されているのかと!
「踊るようにつくる即興の建築」に驚愕


横から見た蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)
木造ならまだしも……鉄筋コンクリート造ですよ? コンクリートを自分で打つんですよ?
それを聞いただけでも驚きなのに「蟻鱒鳶ルには設計図がない」という更なる驚き! ※ 建設にあたって必要な手続・書類などは勿論、届け出されています。
要は、外壁や内装のデザインを「その場」で決めていくというスタイル。
70センチづつコンクリートを打っていく中で、その時々の様々なアイデアを反映しながら、家の外側と内側を創り上げていくそうです。





コンクリートの型枠が実にユニーク


蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)の外壁
コンクリート造に欠かせない「型枠」。蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)は、この型枠作りが実にユニークです。
ご覧のとおり、コンクリートの表面が「普通」ではないですよね? 首が痛くなるほど(笑)あちこち拝見しました。


下から見上げた蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)
200年保つ蟻鱒鳶ルのコンクリート





その鍵を握るのは「水」だということを岡さんの本で学んだわたし。
水分量が多くなるほど、コンクリートの強度は低下します。コンクリートは下記の4つを混ぜ合わせて作りますが、
- 水
- セメント
- 砂利
- 砂
世に出回るコンクリートの水セメント比(セメントの質量に対する水の割合)は60%に近いそう。
一方、蟻鱒鳶ルの水セメント比は37%という数字!
水分が少ないぶん、固まる前のコンクリートは粘り気が強く、型枠に打ち込むのも一苦労ですが、蟻鱒鳶ルは徹底してコンクリートの質にこだわってます。
水分量だけでなく、混ぜ合わせる砂利や砂まで、それらがどこで採れたものなのか?までにこだわって、コンクリートを作っているという事実。いやぁもう……本当にこれは凄いことだと思います。
あなたはどれに当てはまる? 3つに分かれる建築家のタイプ
岡さんの本を読んでいて、とても印象的だったのか以下のこと。
建築家・石山修武さんが本の中で仰っていたもの、建築家はどうやら3つのタイプに分かれるらしく、
- [タイプ1]徹底して頭で考えるタイプ
- [タイプ2]頭ではあまり考えず手でつくるタイプ
- [タイプ3]1と2の中間にあてはまるタイプ
岡さんはタイプ2の感覚派。
また、世の有名建築家はそれぞれ、下記に分類されるよう。
- [タイプ1]ミースファンデルローエ
- [タイプ2]ガウディ、フランクロイドライト、アルヴァアールト
- [タイプ3]ル・コルビュジェ
建築の「け」の字も分からないわたしも、この説明によってなんとなく理解できたような……。
わたしはつい考え過ぎてしまうタイプなので、岡さんやガウディのように、感覚でものを創ることは出来ないだろうなぁと自己分析(笑)
コンクリートに魅せられる


蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)の入口に書かれている文字。
蟻鱒鳶ルが、なぜコンクリート造なのか? これについては割愛しますが、岡さんの本を読むとそれがよく分かります。
わたしもコンクリートの住人(マンション住まい)なので、コンクリートには興味津々。
マンションの建築現場で、おそらく多々あるであろう「コンクリートの水増し問題」は、知れば知るほど怖くなりますが……気になるのも事実。
マンションの基礎工事で、杭の数を偽装する業者も居ますから……自分のマンションは大丈夫だろうか……と不安になってしまいます(笑)
という感想もあるものの、岡さんの本、そして蟻鱒鳶ルは、とにもかくにもエキサイティング!!
建築に興味のない人にも是非、この本をお読みいただきたい。関東にお住まいの方は是非その目で、蟻鱒鳶ルをご覧いただきたい。
と、言いますのも……
再開発による蟻鱒鳶ルの危機


再開発エリアに建つ蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)
蟻鱒鳶ルが建つ敷地が、再開発地エリアに含まれるらしく、先々どうなるか今まさに危うい状況とのこと。
本を読み、建物を見て、蟻鱒鳶ルのファンと化した今のわたしに出来ることは、このブログを通じて一人でも多くの人に「蟻鱒鳶ル」を知ってもらうこと。
そして、蟻鱒鳶ルがただの建物ではなく「東京・三田の文化財」として認められるべき建築物だという理解を得られたら幸い……です。
こんなに魅力的な美しきビルを、簡単に壊して欲しくはない。そう、強く思います。